大判例

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神戸地方裁判所 昭和24年(レ)80号 判決

控訴代理人は主文どおりの判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、いずれも原判決摘示の事実と同じであるから、これを引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人が被控訴人から神戸市長田区六番町五丁目四十七番屋敷の家屋一戸(以下本件家屋と略称する)を賃料一ケ月金十七円、毎月末持参拂いの約定で期限の定めなく賃借して來たところ、その二階の天井板を取りはずしたので、被控訴人が控訴人に対し昭和二十二年八月十一日到達の内容証明郵便でその修復を催告し、もし該書面到達後二週間内に修復をしないときは本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に爭がない。被控訴人は控訴人が右天井板を取りはずしたのは燃料にする爲にはずしたように主張するけれども、当審証人大塩ゆきゑの証言と控訴人本人の供述を綜合すると、戰時中都市に対する空襲が激しくなつてきた頃警防団等から燒夷彈が落下しても、それが天井などに止らないよう早急に天井板を取りはずせといつてきたので、控訴人は被控訴人の承諾をえていなかつたけれども昭和二十年初頃敍上認定のとおりこれを取りはずしたものであることが認められる。そして当時神戸市などの都市にある家屋はいつ空襲によつて燒かれるかもしれないような緊迫した状態におかれていたので、それぞれ居住者はそれが自分の家であると、他人から借りている家であるとを問わず空襲から家財を守る爲天井板をはずしていたのであつて、その行爲が防衛上必要かつ適切な措置として当時一般になされていたことは当裁判所に顕著な事実であるから、敍上認定のとおり控訴人が被控訴人の承諾なしに天井板を取りはずしたといつても当時の状況下においてはやむをえない行爲であつて、それが不法であるとは到底認められない。次に原審檢証の結果によると、本件家屋表側に面する屋根が一部破損しており、又原審証人辻久子の証言によると同人が本件家屋の二階を借りるときには二階全部の疊がなく、床板のまゝであつたことが認められるが、かゝる事実と当審における証人大塩ゆきゑの証言を綜合すると、控訴人は取はずした天井板を二階六疊表側のベランダに一まとめにしておいたところ、昭和二十年二月頃の空襲の際落下した燒夷彈の飛火が右天井板にもえ移つたので、消火のため点火した疊と共にそれを表の道路に投げ出した結果燒け残つたものはその後散逸した爲め、その旧材による天井の修復はできなくなつたことが認められる。右認定に反する原審での原告本人ならびに当審での被控訴人本人の供述はたやすく信用できないし、他に右認定を覆すに足る証拠がない。このように控訴人が天井板を取りはずしたのは本件家屋を空襲から守る爲やむなくなしたのであつて、その後右天井板は全く不可抗力によつて一部は燒失し残余も空襲による騒ぎの間に散逸したのであるから、控訴人は本件家屋二階天井を自らの費用を以つて原状に回復すべき義務がないといわねばならない。尤も控訴人が被控訴人に対し、修復することを自認していたことは控訴人の供述により認められるけれども、右のような事情により取除かれ、修復できずにいるのであつて、元々控訴人に修復を求めることの無理な右事情や、修復を求めた当時は末だ終戰後経済事情の極めて悪化していたこと顕著な当時であつたこと等を考え合せると、その修復をせぬことを理由に住宅の得難い時本件賃貸借を解除するのは酷に失し、民法第一條の精神に反しその効力はない。次に控訴人が本件家屋の二階を一時他人に貸していたことは当事者間に爭がない。しかして原審証人辻久子の証言によると、控訴人は昭和二十三年五月頃から翌二十四年一月頃まで本件家屋の二階を辻久子に賃貸していたことが認められるが、被控訴人はその間において控訴人に対し右轉貸を理由に本件家屋の明渡を求めたような事実は被控訴人の全立証によつても認められない。尤も被控訴人は本訴において右轉貸を理由に賃貸借を解除する旨意思表示しているけれども、該訴状が控訴人に送達されたのは昭和二十四年四月二十一日であることは本件記録によつて明らかであるが、当時においては本件家屋の二階を何人にも轉貸していた事実のないことは敍上認定の事実から又明らかである。しかして、無断轉貸を理由に賃貸借契約を解除しうるのは結局その轉貸が契約当事者間の信頼関係を破る背信行爲に当る程度のものであつてはじめて解除権が発生するものといわねばならないが、敍上認定のように本件轉貸は極めて短期間の一時的な間貸し程度に過ぎないもので、被控訴人がこれを理由に本件賃貸借の解除の意思表示をした当時はすでに間借人は他に轉居し正常な賃貸借関係に復帰していたのであるから、この点に関する被控訴人の解除権の行使はこれ又権利の濫用であつて、その効力なきものというべきである。次に、被控訴人は昭和二十二年六月一日から契約解除の効力が発生したと称する同年八月二十五日までの賃料とそれ以後の損害金を請求しているけれど右損害金の請求が失当であることは、敍上の判断からして明白である。しかして賃料については成立に爭のない乙第一乃至第四号証と控訴人本人の供述を綜合すると、昭和二十二年六月一日から同年八月二十五日までの賃料はもとより昭和二十四年五月分までの賃料についても被控訴人がその受領を拒むので、控訴人においてはその弁済のため供託していることが認められるから、被控訴人の請求にかゝる賃料はすでに支拂済で債務を免れているといわねばならない。果してしからば、被控訴人の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却するのが相当であるのに、その請求を認容した原判決は失当であつて本件控訴は理由がある。よつて原判決を取消し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 西川正世 細見友四郎)

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